こんなところでも近畿タクシー

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以下の文章は「朝日新聞2007年5月9日朝刊」の記事を転載しています。

聞きたい… 語りたい トップインタビュー

料金維持 発想で勝負

運賃値上げ どう対応

塾送迎や菓子店巡り

近畿タクシー・森崎清登社長


 燃料高や規制緩和で経営環境が厳しくなっているタクシー業界で、運賃の値上げが相次いでいる。10年ぶりに値上げする大分県や長野県に続き、東京都区部なども追随する見通しだ。こうした動きとは一線を画し、「介護タクシー」や神戸の有名洋菓子店をめぐる「スイーツタクシー」などのアイデアで勝負しているのが近畿タクシー(神戸市)。森崎清登社長(54)に業界動向や経営戦略を聞いた。 (寺光太郎)


−−運賃値上げが続々と決まりそうです。
 「タクシー事業者はここ数年、燃料高に頭を悩ませてきた。中小の利益率は2〜3%が一般的で、燃料高で利益が飛んでしまう。規制緩和を進めた小泉政権から格差是正を掲げる安倍政権に代わり、閣僚から値上げ容認発言が出たのが大きい。値上げの動きに勢いがついた」
−−同じように値上げを申請しますか。
 「大阪や京都、神戸はサービス競争が厳しく、簡単に値上げできる状況ではない。低価格でサービスが良い『MKタクシー』も脅威だ。どの社長も本音では値上げしたいだろうが、先行すると、お客から『なに考えてんねん』と怒られるのは間違いない」
−−経営環境はますます厳しくなりそうです。
 「02年の規制緩和で車両台数は大幅に増え、値下げ競争にも拍車がかかった。ここ数年の売上高は微減が続く。それでも、競争の時代になったのだから、そろって値上げという選択はしたくない」
 「現行は1.5キロの初乗り運賃は660円。そのお金があれば、ビデオを借りてコンビニでチューハイとポテトチップを買える。今のタクシーが対価に見合うサービスを提供しているとは思えない。『乗って得した』と思われる付加価値の高いサービスを提供し、お客に選ばれる会社になることを目指している」
−−たとえばどのようなサービスですか。
 「ヘルパーの資格を持った運転手が10人いる。彼らが『介護タクシー』の担い手として、介助が必要な高齢者の外出を手助けしている。警備会社で研修を受けてもらい塾帰りの子供を自宅に送り届けるサービスも好評だ」
 「神戸周辺の観光資源も有効に使いたい。神戸や芦屋の有名な洋菓子店と提携して『スイーツタクシー』を始めた。神戸空港で出迎えて提携先のお店を回り、限定メニューを用意してもらっている。こうした連携は今後も強化する」
−−過当競争でも生き残れますか。
 「供給過剰なのに倒産が少ないのは、公共交通機関として護送船団方式で守られてきたから。しかし、その船団の燃料切れは一斉に起こる。そうなれば、淘汰、再編は一気に進むだろう」
 「中小が生き残るビジネスモデルは、地域住民に必要とされること。単なる移動手段としてではなく、介護や子供の安全など生活のあらゆる場面にかかわっていけるかどうか。ペットの散歩やマンションの宅配便の管理だって将来的に請け負いたい。ライバルはMKより、クロネコヤマトだ」


近畿タクシー
 52年に設立。神戸市域が営業エリアで52台を保有。06年度売上高は約3億円。森崎社長は75年に西宮酒造(現日本盛)に入社。86年に義父が経営する近畿タクシーに移り、96年から社長。場所取りまで請け負う「お花見タクシー」や、自宅と海水浴場を水着で往復できる「海のタクシー」が人気。
運賃値上げ
 原油価格の上昇に伴う燃料高が経営を圧迫しているとして、昨秋ごろからタクシー会社の値上げ申請が急増。大幅な規制緩和を実施した02年の制度改正で、最初の値上げ申請から3カ月以内に、同じ営業区域からの申請数が登録台数ベースで70%を超えると、国が審査することになった。
 4月から大分県の小型車は1.5キロの初乗り運賃の上限を560円から620円、長野市周辺の普通車は上限を650円から710円に値上げ。東京都区部は初乗りの上限810円で審査している。国交省によると、近畿地方は和歌山県の2地域で値上げ申請を審査中だが、競争の激しい京阪神地域からの申請はゼロ。

 スキャナで紙面より写真の画像を取りこみましたので、若干汚れが目立ちますがご了承下さい。


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