こんなところでも近畿タクシー

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 以下の文章は介護情報誌「チャレンジYOU」2000年9月号の記事より転載しています。


 レトロ調のロンドンタクシー、環境と人にやさしい天然ガス福祉タクシー、そして次世代のユニバーサルデザインタクシーと次々に話題の車両を導入して、利用者のニーズをつかむタクシー会社が神戸にあります。「地域のなかで何ができるか」という発想から、阪神大震災後の地元商店街の「足」としてまちづくりに参加している近畿タクシーの活動を紹介します。

まちづくりに参加する近畿タクシー株式会社

−地域の中でお客様が求めるサービスを提供−

女性ドライバー
  神戸名物ポートキャブと女性ドライバー
の杉田哲子さん。この仕事に就くまえは、
水泳のインストラクターをやっていたという。

高齢者にやさしい商店街
  7月1日にアスタで行われた「高齢者
にやさしい商店街づくり事業」のオープン
セレモニーのようす。電動三輪車は会員
制でお年寄りに人気がある。

好評だった乗車券引き換えサービス
  長田の商店街「パラール」とくんで、ガラ
ポン抽選で5等の50円お買い物券を2枚集
めると、タクシー乗車券と引き換えるサービ
スを実施した。

  バリアフリーからユニバーサルデザインへ

 交通機関も「バリアフリー」という考えかたをさらに一歩進めて、初めから健常者も高齢者・障害者もすべての人にやさしく、快適さを享受できる「ユニバーサルデザイン」という考えかたに変わりつつあります。近畿タクシーは、車いすに乗ったまま乗れるワゴン型のユニバーサルデザインタクシーを2台導入しました。大型タクシーですが、運賃は一般タクシー並に近づける工夫をしています。流しタクシーとして稼動することで採算を確保、従来の福祉タクシーでは対応できないお客様にも好評です。
 5年前の阪神大震災で最も大きな被害を受けたJR新長田駅南地区(通称アスタ)は、いま再開発で大きく変貌しつつあります。震災後、商店はテントを張って商売を続けていましたが、新しいビルが次々と建ち、賑わいを取り戻しました。でも買い物客の自宅から商店街までのアクセス、安心して移動できる手段がありません。アスタでは電動三輪車で買い物をする「ショップモビリティ」を導入していますが、同社はその足として、自宅から電動三輪車のある基地までのアクセスを担当しています。また、長田の商店街と組んで、ガラポン抽選で5等の「50円お買い物券」を2枚集めると、タクシー乗車券と引き換えるサービスも行いました。車いすや自転車で買い物に来て、帰りはタクシー後部に取り付けた「サイクル・ラバーズ」と呼ばれる鉄製器具に乗せて自転車ごと自宅まで送ってくれるサービスです。同社は地元商店街といっしょにまちづくりに参加し、高齢者や障害者など移動に制約がある人のニーズがどこにあるのか、地域のタクシーとして何ができるかを考えています。
 社長の森崎清登さんは、「お年寄りや障害のある人が荷物の心配なく買い物ができるようにしたい。いままで水や空気のように気がつかなかっただけで、この地域でタクシーができることはいっぱいあります。ユニバーサルデザインタクシーを入れると、まちづくりや商店街づくりに参加できます。この車は従来にないツールとして、いろいろな可能性を秘めています」と話します。
 地元の障害者情報誌「トゥモロー」編集室・代表の吉良和人さんは、「高齢者でこういうサービスは必要。近畿タクシーは利益を度外視してやっているが、これからの商売だと思う。運転手の対応もいい。もっとこういうサービスが増えて、予約なしでも流しでひろえるようになったら」と話します。

  「待ち」の営業から「個別ニーズをつかむサービス」へ

 近畿タクシーは、無線小型・中型タクシー(セダン型)以外に、英国レトロ調のロンドンタクシー(3台)、環境にやさしい天然ガス福祉タクシー(1台)、ベッドのまま乗れるリフトタクシー(1台)、28人が乗れる小型バス(3台)、そしてユニバーサルデザインタクシー(2台)と、次々にユニークな車両を導入してきました。また、ケア・ドライバーの研修にも力を入れています。
 人気のロンドンタクシー(ポートキャブ)は、ブライダルやホテルオークラと組んだ観光ツアーに利用され、おしゃれな神戸の街に欠かせない存在となっています。同社は人が乗らなくても、ものだけを運ぶ「あっとサービス」などユニークなサービスもしています。また、交通渋滞に悩まされる神戸・有馬温泉で、温泉街への進入道路を規制し、周辺地域の駐車場から中心街までをシャトルバスで送迎する「パーク&ライド方式」の実証実験にも参加しました。神戸には約100のタクシー会社がありますが、「珍しいタクシー会社」として知名度は抜群です。
 森崎さんは、「これまでのタクシーは“待ち”の営業姿勢でした。流し営業ではなく、特定のお客様に対応できるサービスをやってみたいと思って最初にロンドンタクシーを導入しましたが、これが社内にカルチャーショックを与え、運転手の意識が変わりました。お客様の情報がすぐ戻ってきて、みんな新鮮に感じたようです。いろいろな商品(車両)をそろえ、観光から介護までニーズに応えます」と話します。

  ユニバーサルデザインタクシーを全国ネット化

 ユニバーサルデザインタクシーの全国ネットワーク組織「ユニネット」も誕生しました。近い将来規制緩和の波が押し寄せることを予測し、フランチャイズチェーン展開で利用者の求める魅力的なサービスを提供する体制を整えていきます。現在、横浜、川崎、横須賀、川越、静岡、堺、神戸、長崎のタクシー会社がユニネットに参加し、広域的なサービスを開始しました。神戸からは同社が参加しています。タクシーは地域性が高い乗り物ですが、広域的なネットワークができたことで、たとえば車いすを利用している長崎の人が新幹線や飛行機で移動して横浜で観光を楽しむことも可能になりました。ユニネットでは、車いすが利用できる宿泊施設や商業施設などの情報を収集して旅行なども企画していきます。
 森崎さんは、「これまでのタクシー会社はお客様のニーズとずれていました。いろいろやってきて、『移動体』『機動力』というタクシーの特徴と運転手の能力を生かせばいろいろなことができることがわかりました。ドライバーのトレーニングと車の組み合わせ次第でお客様のどんなニーズにも対応できます」と話します。
 従来の発想をすて、地域の中で住民がどんなサービスを必要としているのかをいっしょに考えていく同社の姿に、次世代のタクシー会社の可能性を感じました。(編集部・梅田浩)

ユニバーサルデザインタクシー パーク&ライド実証テストの様子 ベテランドライバー
車いすに乗ったまま乗れるユニバーサル
デザインタクシー。
有馬温泉で「パーク&ライド方式」実証
実験にも参加。
「震災のときに地方からきた医療班を
乗せたのが一番印象に残っている。
車いすの人を乗せるときは、事故が起き
ないように慎重にやります」と話すベテ
ランドライバーの別府敏晴さん。

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