こんなところでも近畿タクシー

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以下の文章は「神戸商工だより」(神戸商工会議所:発行)2001年7月号中の記事を転載しました。

事例に見る情報化最前線

第14回 ITの導入によって顧客志向の徹底化を図る

近畿タクシー株式会社

 ロンドンタクシーの導入などユニークな商品開発や、コミュニティバスの運行など地域に密着した企業として知られる近畿タクシー(株)のIT化の取り組みについて、同社の森崎社長にお話を伺いました。
きっかけはナンバーディスプレイ
 当社のIT化の取り組みとしてCTI(*)の導入があります。タクシー会社専用のCTIシステムとしてはGPS機能や音声対応の自動配車システムなど非常に高機能なパッケージ化されたシステムがありますが、価格も数千万円と高価です。当社ではこうしたシステムが広まる前に、ちょっと変わったきっかけでCTIを導入しました。
 NTTがナンバーディスプレイサービスを始めた頃、それを新聞で知り顧客管理に利用できないかと考え、すぐNTTに問い合わせました。社内で使用していた電話機に液晶ディスプレイが付いていたので、簡単に対応出来るものと考えていたのですが、答えは『使えない』とのことでした。普通ならここで話が終わるところですが、営業の方とやり取りの中で、『顧客管理にナンバーディスプレイを利用したい』と思い描いていたアイデアを説明すると興味を持たれ、東京でそういう用途に使えそうなシステムを研究しているとのことで、話を繋いで頂きました。その結果、東京から研究者が来られ、当社がモニター役となって、そのシステムを当社のネットワーク環境に乗せて使ってみようということになりました。これが当社のCTIシステム導入の経緯です。
 研究者は、システムとしての完成度は求めますが、用途がはっきり見えていない部分があります。当社が『このように使いたい』という提案を行ったことが用途開発の方向性を示すヒントになったのではないかと思います。当社もモニターになることで低コストで導入できましたし、要求に応じて色々とシステムのカスタマイズをして頂いたので、お互いにメリットが享受出来る良い結果となりました。

顧客志向への脱皮を目指す
 また、CTI導入とほぼ同じ時期にMCA(マルチチャンネルアクセス)無線という自社無線を導入しました。MCA無線は宅配便業者等が利用している無線です。以前は規制によってタクシー会社はいわゆる『タクシー無線』しか利用出来ませんでした。このタクシー無線を使用するには車両が200台以上あることが条件となっており、当社のような中堅規模のタクシー会社の車両台数は平均的に50台程度ですので、4〜5社が一緒になって許可を受け共同で使用するしかありませんでした。それが3年前から規制緩和によってタクシー会社にもMCA無線が開放されるようになりました。これは自社単独で利用できる無線です。
 共同のタクシー無線を利用している場合、配車依頼するお客様にとっては、その無線を利用しているどの会社のタクシーが来ても差し支えはないでしょう。しかし、タクシー会社にとっては『自社の顧客管理が出来ていない』『顧客の囲い込みが出来ない』ということになります。また、管理者や乗務員にも顧客を自社のお客様として見る意識が生まれません。
 タクシーは不特定多数のお客様を運ぶという命題がありますが、不特定多数の客とは顔の見えない客、顧客管理をしなくてよい客を指すのではありません。不特定多数の都市交通の担い手であっても、特定少数のお客様に向かい合っているという意識を持っていなければ生き残っていけないと思います。そうした顧客志向へ脱皮するためにも自社無線は絶対必要であると考えました。『CTIでお客様を確認して、自社無線で配車する』。これによって、お客様との間のONE TO ONEの関係が築けると思います。

ホームページでサービスの進化を
 当社のホームページには、『タクシー進化論会議』というコーナーを設けています。このコーナーでは「こんなタクシーがあったら便利なのに」「こんなサービスが欲しい」「タクシーのここを改善して欲しい」等タクシーサービスについての意見を公募しています。3ヵ月ごとに期間を区切って募集し、現在、第4回目の会議を開催中です。今まで延べ2,500件の貴重な意見を頂戴し、直近に締め切った第3回の会議では約400件の意見を頂きました。その中から4つの優れた意見を「当選」とし、実際に当社のタクシーのうち1台に取り入れています。(1.加算料金が上がるタイミングが目で見て分かるメーター、2.後部座席でお客様がFMラジオの選局ができる工夫、3.後部座席で携帯電話の充電ができる充電器の設置、4.携帯型チャイルドシートベルトとキャラクター玩具搭載)。
 これらのサービスは3ヵ月間限定で取り入れ、お客様から好評だったアイデアは正式なサービスに移していく方針です。サービスが一般の方から公募されたものであることを車内に明記しておりますので、乗車されたお客様も興味を持たれて、色々な意見を下さるきっかけになっています。サービスをテーマに乗務員と乗客の間でコミュニケーションが図れることは非常に好ましいことです。効果は半信半疑でスタートした『タクシー進化論会議』ですが、蓋を開けてみてその反響の大きさに驚いています。『情報発信しながら、同時に情報受信出来る』『数多くの消費者との間でコミュニケーションを図ることが出来る』IT化の重要性を改めて認識させられました。

システムの導入で埋もれたナレッジの掘り起こし
 その他のIT化の取り組みとしては、今年2月から導入している受注管理システムがあります。これは予約の入力、予約案内書の発行、配車確認、請求書の発行など、一連の業務フローを処理するシステムです。中堅規模のタクシー会社でこうしたシステムを稼動させているところはおそらくありません。
 従来、当社ではこうした予約から請求までの一連の業務処理を、お客様とのやり取りの記録を含めて、帳面に手書きで記録して処理していました。しかし、業務の進捗状況を掴み難いし、何よりもお客様とのやりとり、営業交渉の経緯が埋もれてしまいます。このような情報は実は当社のノウハウの塊であり、みすみす埋もれさせるのではなく、全員が共有し活用出来る仕組みが必要であると考え、システムの構築を決断しました。このシステムはまだCTIの顧客データとは連動していませんが、いずれデータベースの一本化を図り、より徹底した顧客管理を行いたいと考えています。

規制緩和によるサバイバル時代の到来
車内でNTT西日本のISDN、マイラインの申し込みができます。 当社ではこれまで、ロンドンタクシーの導入をはじめ他社に先駆け様々な取り組みをしてきました。現在ではタクシー車内で商品情報を提供し、実際に商品の販売も出来る『動く代理店』というコンセプトで、NTT西日本のISDN、マイラインの申し込み受け付けをしています。
 ITの導入を含めこうした生き残り策を模索している背景には、来年2月に実施されるタクシー業の規制緩和があります。これによってタクシー業界は今まで以上に厳しい生き残り競争に晒されますが、当社では常に顧客志向に立ち返ることがこうした時代に勝ち残る最も有効な戦略であると思っています。

※CTI
Computer Telephony Integrationの略。電話とコンピュータを融合させた利用技術、新サービスの総称。電話をかけてきた顧客の電話番号を自動的に検知して顧客データベースから当該顧客のデータをパソコンの画面上に瞬時に表示する。オペレータは過去の利用状況を即座に知ることが出来、きめ細かい接客サービスが可能になる。CTIはITの現実的な利用方法として重要度はさらに増してくる。

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