こんなところでも近畿タクシー

区切り線

以下の文章は平成14年2月16日付「朝日新聞・朝刊 私の視点」に掲載された記事を転載しています。

朝日新聞 私の視点 行政から自立する好機だ

  森崎 清登 近畿タクシー社長

 2月1日、神戸の朝はカラリと晴れた。今日も無事故でがんばろう。点呼で掛け声が上がる。
 我が社は創業50年、営業車52台。同規模の事業者が市内に70社余りある。来るぞ、来るぞとオオカミのように言われ続けたキセイ・カンワがこの日、静かにやって来た。不況の中、タクシー業界は厳冬の時代に突入したといわれる。が、タクシーから「認可事業」の看板が外れることを、私はむしろ春を迎えるチャンスととらえている。
 2年前、ホームページを立ち上げた。大見出しで「タクシーは進化する」とうたった。「あなたが考えたタクシーが神戸の街を次々走る」をテーマにしたタクシー進化論会議は、こうして始まった。全国から3千通を超えるメールが届いた。小躍りしそうなアイデアが百出した。
 料金メーターが80円上がるタイミングを事前に知らせるカウントダウン・タクシー。お客様と乗務員が長らく辛抱してきた「80円ストレス」をたちどころに解決した。ラジオチャンネル選局主導権樹立タクシーは、廃車のラジオをリサイクルして客席に備え付けたもの。客席の空間はお客様のものだと宣言した。
 事業者が気づかないまま当たり前になっていた「お仕着せ」を、お客様が見事に衣替えした。そのスマートな視点に驚いた。
 アイデアの効用は、これに収まらない。PHPを活用した迷子発見タクシーは、暮らしの安全にまでサービスを広げ、警備業への参入も視野に入ってきた。
 アイデアの森にたたずんでいると、キセイ・カンワの輪郭が見えてくる。暮らしの中の不便を解消するメニューを作り、お客様の選択肢を多くする。値ごろを決めるのは、事業者が最も慎重を期す仕事だ。運賃は天からの授かり物ではなく、サービスの内容に市場が反応するもの。「運賃の自由化」は当然だ。「参入の自由化」はメニューを作り出す才能を持つ事業者の出現を待つためのものだ。
 キセイ・カンワの功罪を問う議論は承知している。それどころか、中小事業者である我が社に直接痛みは来る。だが、その痛みは行政の手のひらからの自立の証だ。認可事業の呪縛から脱し、お客様本位のまっとうな事業者になれる最後のチャンスなのだ。
 チャンスの賞味期限はすぐに終わってしまう。だから、中小タクシー会社の皆さん! 一緒にあわててサービスメニューを作りましょう。リナックスのソフト開発のようなオープンシステムはいかが? 旅客輸送のプロ集団が智恵を出し合えば、タクシーサービスの基本ソフトがきっと出来る。この春、ホームページの中ですべてのアイデアをダウンロードできるようにしたいと考えている。


 新聞紙面よりスキャナで写真を取りこみましたので、若干汚れが目立ちますがご了承下さい。

区切り線

戻 る