こんなところでも近畿タクシー

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コインエイジ 盛夏号
2003年7月30日発行
発行:富士電機リテイルシステムズ株式会社
http://www.frsys.co.jp

以下の文章は「coin age(コインエイジ)盛夏号・2003年7月30日発行」に掲載された
特集インタビュー記事「自動販売機の時代」より一部抜粋し転載しています。

自動販売機も、より人に優しく
震災でこの街は優しくなりました

長田ユニバーサルデザイン研究会会長
近畿タクシー株式会社代表取締役
森崎清登

 “ユニバーサルデザイン”という言葉から何が連想できるだろうか。健常者や障害者、子供から高齢者まで、誰もが使いやすい製品や快適な暮らしのための考え方…。神戸市長田区のユニバーサルデザイン研究会会長を務める森崎氏は“幸せ”という言葉でそれを説明してくれた。
「ユニバーサルデザイン(以下UD)というのは、高い理想や基準はなく、もともと自分たちが持っているものを掘り起こしてくれる言葉です。自分が幸せになるには、まずまわりの皆が幸せにならなければいけない。これがUDのひとつの考え方です。私のことでいえば、タクシー会社として何ができるかということ。だから行き着くところが、各々の業態で変わってくる。研究会のメンバーは、行政や企業などと多くいらっしゃいますけれど、それぞれが自分の強み、自分の事業を活かす方法として、皆が幸せになれるという目標がある。UDは新しい言葉なので取っつきは悪いんですが、その気分はこの地域では皆が持っています。より多くの人に役立ちたいというボランティアな気持ちが、直に触れているだけに強い。そこが神戸の強みです。皆が共通のスタートラインを持っています」

 95年1月に関西地区を襲った阪神淡路大震災。広範囲な被害地域のなかでも、長田区は大規模な火災に見舞われ、多くの損害を被ってしまう。この経験が、長田という街を実質的にも、内面的にも大きく変えた。
「このエリアでは震災で、自分だけが助かって良かったとは誰も思わない。震災というより、震災後を経験している。皆が助けたいし、助けて欲しい。それを媒介してくれたのがボランティアの方なんです。ボランティア活動によって心が動いた部分が大きい。1年経ってボランティアの皆さんが帰られる時に“これからは、皆さんで街を作ってください”とメッセージを残してくれたんです。それまでは甘えて寄りかかっていた部分もある。そこで、自分たちがこの街を作らなくてはという気持ちが起こりました。以前は、こういう関わりはなかったですね」

 タクシー会社の代表でもある森崎氏は、震災後の様々な復興作業のなかで、自らの事業を通してUDへの試みを手がけ始める。エコカーや福祉車両に始まり、子供がひとりでも利用できる“安心かえる号”、車椅子でも海に行ける“海のタクシー”など、豊富なアイデアとちょっとした工夫で、大きな成果を挙げている。
「低公害車という環境への配慮を考え始めたきっかけも、震災だったんです。震災でこの街は優しくなったんですよ。ボランティアの皆さんから、優しさをいただいたおかげで、この街は“優しい”という言葉をキーワードにできるようになったと僕は思ったんです。で、環境への優しさをと、全国初の天然ガスタクシーを導入したんです。どうせ改造車になるならば、これからのタクシーに求められるものをもっと付けていこうと思い、シートがリフトアップする機構を付けた。このおかげで福祉車両の要素が強くなりました。そのあとで、どなたでも乗れるタクシーをということで、UDタクシーを作りました。タクシーは繋ぐ役割ですから、どちらか一方がUDであれば、私どものアクセスもUD的になって、個々の機能を繋いでいく。海のタクシーは、須磨の海岸に水着で行って水着で帰れるのがウリでしたが、そこの国民宿舎に砂浜用の車椅子があったんですよ。そこでUDタクシーと組み合わせると、波打ち際まで行けないと思っていた方でも行けるようになった。砂浜というバリアを乗り越えられた。無理にやったのではなくて、既にあるものを繋ぐことによって、お客さんが考えもしなかったことを実現できた。これがうちのUDなんですね」

 当たり前のことを、UDという括りでもう一度見直しをすると、全てのことが上手く回る。UDは少しずつの積み重ねだけれど、これからの100年間に通用するキーワードでもあるという。それでは、これからの自動販売機に求められるUDとはどういった形なのだろうか。
「御社のハーティというUD自販機を初めて見たときは、驚きと喜びがありました。これまで不便を感じていた分、皆が良いと言いますよ。これがスタンダードになっていく過程がUDなんだろうと思います。空港へ降りると、みそ汁の匂いがするように、街にでると自販機があるのが日本で、もう風景の一部になっています。だからこそ、これはメッセージを伝えるものにするべきだと思うんです。子供の頃から生活に親しんでいる風景で、幼稚園児でも自販機の絵を描ける。だから風景として認めて、そこでどうなのかと論議していく。誰もが使うから、情報発信としてUDを伝える存在としてはすごく良い。本当はこれが当たり前になるのが良いのですけれど、今は啓発の時期ですからUDというメッセージをしっかりと入れて欲しいです。それで蓋の開けやすいものなんかも飲料メーカーさんに開発していただいて、このUDの機械は、入っているものもUDであるという風に、それぞれの事業者の方々が繋がっていく。結局こちらもUDを促進できるし、販売もあがると。僕は場を持っているんで、まさにここ長田区が研究会として役立って行ければと思います」
ユニバーサルデザインは、
既にあるものを繋ぎ合わせて、
皆の幸せを作っていくもの。
自分が幸せになるには、
まずはまわりの皆が
幸せにならなくては。
長田ユニバーサルデザイン研究会 www.nagata-ud.com/index.htm
近畿タクシー株式会社 www.threeweb.ad.jp/~taxikobe/

 冊子よりスキャナで写真を取りこみましたので、若干汚れが目立ちますがご了承下さい。


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