こんなところでも近畿タクシー

区切り線

以下の文章は「季刊 都市政策 第117号(平成16年10月1日発行)/特集:ユニバーサルデザイン」
(発行所:財団法人神戸都市問題研究所)に掲載されたものを転載しています。

地域のユニバーサルデザインは、難問を抱えているか?
ながった区の例から
                           森 崎 清 登
                                                 (長田区ユニバーサルデザイン研究会会長)

<私たちがめざすもの>
 再開発地区があり、新しい街づくりが進む神戸市長田区は、もともと人情豊かな街です。
 年をとっても、体に不自由ところがあっても、誰もが生き生きと暮らせるように「人」と「人」との「つながり」を大切にしている土地柄です。そんな人と人のつながりが大きなひとつの輪になっていくように私たちの研究会は生まれました。私たちはひとりひとりができるところからユニバーサルデザインの取り組みを進めていきます。住んでいる地域で出来る小さな取り組み、仕事の中で出来る小さなサービス。ひとつひとつの小さな「情熱」が、「人」と「人」との出会いを通して、少しずつ、でも確実に伝わっていく。それが、私たちの活動です。

 この一文は、2003年1月に埼玉県で開催されたユニバーサルデザイン全国大会に持ち込むべく作成した、長田区ユニバーサルデザイン研究会の紹介パンフレットに掲載したものです。
 「 」で囲まれた文字が赤色で目立つように印刷してあります。「人」と「つながり」と「情熱」。ぎゅっと搾り込んで、出てきた三つの言葉を素に、研究会の概要について触れたいと思います。

 「人」は、まず、研究会の会員の紹介です。商店街の店主、ボランティアグループをつくっている民間事業主、小学校の先生、第3セクターの街づくり会社、共働作業所の仲間、長田区役所の市民部、保健部、福祉部の担当者の方、老人クラブ、民生委員、障害当事者団体、社会福祉協議会の皆さん、35名が第一回研究会に集まりました。2001年7月のことです。区役所の大会議室での大掛かりな会合にしては、なぜか、柔らかでアットホームな気分がありました。隣り合う人同士の私語も、そこかしこで交わされていました。「ユニバーサルデザインって、何?」「聞いたことは、ある。でも、よくは知らん」という会話もありましたが、どうも、人選にひと工夫があり、日頃から、地域活動等でお互いよく知り合っているという人が多かったようです。この会合以降、「人」はユニバーサルデザイン・フェアなど行事する度に、出会いながら、増えてゆきます。
 「街の活動家のルツボ」と名付けたくなる研究会のその後の展開を予感させる雰囲気がありました。

 「つながり」は、復興の営みの中で、人々がその価値にあらためて気づいたものです。身近に居る人とつながる大切さを教わりました。みんなが、つながって思いを共有できる安心感が、困難を打開してゆく手立てになることも肌身で知りました。つながりを積極的にもつことで、地域活動は活性化に向かう。人と人のつながりがそのエンジン。有りものの地域活動のネットワークを幹線に、そこからつながる支線をどんどん増設する。「つなぐと、面白くなる。新しい発見がある」という発想は、しばらくして、研究会運営の特長的なスタイルをつくります。
 色々な活動を束ねるのでなく、お互いをつなぐこと。
 答えをまとめるのでなく、課題を広げること。

 「情熱」は、私たちのまちづくりへの思い入れです。震災直後の恐ろしいほど広い焼け跡と倒壊した建物跡。失ってしまった哀しさ。そこから、立ち上がる思いです。「情熱」を灯し合う中で、「くらしづくり」、「ものづくり」、「ひとづくり」、と広がってゆきます。

 全国大会に持ち込むパンフレットの一番目立つところに、変わった等式を書きました。

 (ながた区+人)×情熱=つながった

 そして、続けて「この等式が成り立つ理由を、あなたは解けますか?」と出題してみました。ヒントは、「当のパンフレットを隅々読んでいただければ、わかます!」と書いています。是非とも、この機会に全国の皆さんとつながりたい。という思いから、ひねり出したアイデアでした。

<つながった区民になるためのトラの巻>
 これから、読者の皆さまにも、この出題を解いていただきたいと思います。この文章は、その「ヒントのヒント集」です。皆さんが答えを出せる良い虎の巻になるか、はたまた、行間のジャングルに迷い込ませ、尻尾の巻になるか。隅々までお読んでいただければ、それは、間違いなくご判断できます。

 よくわかるためには、聞くより、見るより、体験が一番です。このトラの巻では、虎穴に入る勢いで仮想体験風に進めてゆきます。


1. プロジェクトチ−ムに参加
 「つなぐと、面白くなる。新しい発見がある」という発想を共に確認をし合ったり、「街の活動家」が集まりやすく、居座ってくれる場を提供する。そんな端緒なった研究会のプロジェクトチームをご紹介します。

 「みる」チームは、UD見学ツアー・先進地区への視察(見学)
 「きく」チームは、UD講演会・勉強会・アンケート調査(調査・学習)
 「かぐ」チームは、街のUD情報発見隊・UDマップづくり(取材)
 「いう」チームは、研究会のホームページ、啓発パンフレット(発信)
 「ふれあう」チームは、区民対象のUD研修会、小中学校でのUD体験授業への協力(交流)
 「場」チームは、UD商品開発のための場づくり・UD商品やアイデアの表彰(開発)

 研究会の会員は、それぞれいずれかのプロジェクトチームに所属して、研究会の五感になって活動してゆきます。すべてのプロジェクトチームの集合体として研究会が成り立っていく、という構図になります。後は、第六感を研ぎ澄ましてゆく楽しみがあります。
もちろん、一つのプロジェクトチームに所属していても、別のチームの活動に関わることもあります(たとえば、普段は「きく」チームに所属している人が「ふれあう」チームの企画した研修会で講師として活躍するなど)し、複数のプロジェクトチームが一緒に活動することもあります。プロジェクトチームへの会員の配属は、原則として、会員自身の希望によって行います。肝心なことは、職業・立場などにとらわれることなく、会員自身が興味のある活動に参加することです。
     研究会の様子
 では、プロジェクトチームの具体的な活動内容として、「ふれあう」チームの小中学校でのUD体験授業への協力事業をご紹介します。
 研究会発足前からあった会員同士の連携した活動に、広がりをもたせたUD授業は、「ひとづくり」のメニューの好例です。

●実施にいたった要因
(1)研究会の目的である「UDの啓発」を子どもたちから、という思い。
 小中学生が社会人になるころには、UDの考え方が常識になっていると考えられる。そこで、子どもの時からUDの考え方を知り、暮らしていくことは非常に大切だ、という思い。
(2)神戸市長田区社会福祉協議会(区社協)を中心とした福祉教育の土壌
 研究会会員である区社協を中心に、「総合的な学習の時間」に福祉教育を取り入れるべく、学校と地域の連携体制がすでに存在していた
(3)アイデア募集「UD大賞」の企画が持ち上がっていた
 おりしも、アイデア募集「神戸ユニバーサルデザイン大賞」を企画しており、「ジュニア部門」をつくり、教材として使用することができた

 以上のような要因があった中、区社協に学校より依頼があった際にテーマを「UD」としてはどうかと提案し、最初のUD授業が実現。
 その後、研究会会員の先生方の学校を皮切りに授業を実施し、以後口コミ等で広がりを見せている。昨年はKEC(神戸市総合教育センター)の依頼を受け、新規採用教員向け研修や中堅教員むけ研修も実施。

●授業の内容(標準的な内容、実際には実施する学校の授業計画により修正)
(1)小学生
 UDの詳しい解説と、UD製品の体験
(2)中学生ほか
 答えを与えきらず、「考えてもらうこと」が主題。UD製品の特徴を探させた後に解説。

●実績
 14年度 池田小/五位の池小/水木小/高取台中
 15年度 五位の池小/御蔵小/菅の台小/乙木小/太田中/大原中/鵯台中/神戸市総合教育センター初任者研修/神戸市総合教育センター学習素材開発講座
 16年度 池田小(校舎立替にともなうUD化プロジェクト)/鈴蘭台中/神戸市須磨区社協

 UD授業に派遣される「人」は、もちろん会員。つながる「人」は生徒と先生です。当初は、初任教師そのままの気分で、会員は黒板の前に立ちました。アイデア募集などは、伝え方によって、生徒が返してくる内容が一方に偏ったり、また、自由な発想になったりします。教える立場だと思っていると、いつの間にか、教わる立場になっていたということも経験してきました。ある日、小学校の講堂で全校生を前にしました。最前列の一年生から順に学年が上がり、一番奥の六年生まで。児童の皆さんの顔を見ながら、話し始めましたが、何年生に向けて話せば良いのか、戸惑いました。身体機能の他、表現力、理解力などのコミュニケーションに関わる能力の違いがあることに気づきました。普段の落ち着いた頭の中では、当たり前のことと理解していることも、突然、現場に立つと、あわてて、途惑ってしまいます。

  小・中学校におけるUD授業の風景
 こうした大勢の「人」のかたまりと向かい合って、気づくことも有りますが、基本はひとりとひとりです。教室では、暮らしの中でUDなものを発見する楽しさを一緒に学ぼうというスタイルで進めていきますが、やはり、伝えることの難しさを感じました。小さな机を向かい合わせにして5,6人ずつ、班に分けます。「ユニバーサルデザインって、なぁに?」「ユニバーサルデザインは、みんなの家にもあるものです。」と新しい言葉に興味を引いてもらえるように話し掛けます。会員の小学校の先生から「授業は最初の3分が勝負。」とアドバイスを受けました。ただし、気を引こうと、大きな声をあげても、元気だけでは、思いは伝わらない。「生徒10人の内、1人ぐらい好奇心の強い子供がいるので、その子供に、まず、話し掛けてみては?」ともうひとつのアドバイス。目と目が合ったのを手がかりに「お風呂のシャンプーの話」を切り出す。手ごたえ有り。後は、「ユニバーサルデザインに、さわってみよう」と机の上に並んだUD製品を手にとってもらう。ユニバーサルデザインが形として目に見えるものになる。製品を仕上げた作り手の思いが、子供たちにどこまで伝わるか。突然、納得する子供、みんなの発見をまとめようとする子供、反応は様々。でも、確実に伝わっている。きっと、彼らが、ものづくりの一線に立った時、今日のことが、ものづくりのルーツのひとつになってくれたら、うれしいと思う。その時のユーザーは、年老いた私たちだ。ユニバーサルデザインは未来の暮らしを語るのでなく。自分達の暮らしに関わることだと、改めて気づきます。
 摂南大学の田中直人先生にお教えいただいた中にヨーロッパのある町の事例がありました。「廊下の角に、素敵な鳥かごを置き、中に良く鳴く小鳥を入れる。」というものです。視覚障害のある方は、鳴き声が角の印しになる。視覚障害のない方は、鳥かごに目をやりながら、角を曲がってゆく。伝えることの普通さとその工夫の美しさを示す事例だと思い、授業の締めくくりに、よく話題にします。
 今では、パワーポイントを用いての基本プログラムも作成済み。ワークショップ形式のファシリティ役も、こなせるようになっています。
 先生の皆さんとも連携をとって、高校生、小学校の低学年用のプログラムも準備しています。また、長田区内はもとより、他の区の学校にも派遣を始めました。

 このメニューから、さらに、つながるメニューがあります。
 授業でのUD製品の体験を日常的にできるように、地元の長田中央市場にユニバーサルデザイン商品を扱う店をオープンしました。市場で、作業所の商品販売などを行っている市民活動団体「いちばで元気」との協働で運営しています。
 市場の「人」と市民活動団体の「人」のつながりに研究会が加わった重ね技のメニューです。
 そして、もうひとつ、現在進行形のメニューがあります。地元、神戸市立池田小学校の校舎老朽化による立て替えに際し、子供たちのアイデアを新校舎に盛り込むというものです。題して「池田小学校UD化プロジェクト」。高学年の5,6年生には、「行きたくなるトイレ」というテーマで、その色彩を中心にアイデアを集めました。パステルカラーなど新しい色彩のものもあり、床、壁、ドアなどの配色が設計に取上げられます。3,4年生にも各教室入り口に設置予定の看板内に描かれるピクトグラム(絵文字)を考えてもらいました。音楽室、図書室、プールなど、「なるほど、よくわかる」楽しい絵柄が満載でした。2年生は、トイレの壁面に描かれるモザイクタイルの原画をみんなで制作しました。
 制作に夢中の子供たちを見て、「情熱」が世代を越えてつながってゆくのを感じました。


2. 長田発こうべユニバーサルデザイン・フェア実行委員会に参加
 さて、次に、長田発こうべユニバーサルデザイン・フェアの実行委員会の様子をご覧下さい。
 平成13年、14年、15年の秋、3回にわたり、開催したフェアの会場レイアウトを並べてみました。
 実行委員会は会員がフリーに参加できます。全体の企画を練る「人」、ステージの進行を担う「人」、会場の設営で力を発揮する「人」など、「人」の得意技でほぼ分担が決まります。準備は2ヶ月前から始めて、1週間毎に委員会を開催しながら、調整を計ります。一番時間をかけるのは、UD大賞の選考。一番楽しみは、当日の朝、会場の設営が次々と出来上がってゆくのを見ることです。

 平成13年の第一回フェアでは、会員同士が「UDって、何?」と目を見合わせた時が実行委員会の初会合ですから、相当無理をしたはずですが、会場レイアウトを見る限り、今のフェアの原型は作り上げています。

・文具、トイレ関連のメーカー、UD飲料自販機会社などの出展が会員のネットワークで実現しています。
・靴の街・長田をアピールする婦人靴とUD婦人服のファッションショーを地元婦人会の皆さんがモデルになって楽しく開催しました。
・区役所の各窓口で行っている各種相談コーナーを当日会場で出張サービスの趣で実施しました。これが、その後に始まった、区役所内の表示のUDチェックにつながります。
・レイアウトの中で特長的なものと言えば、ショップモビリティです。地元、新長田再開発地区の商店街を中心とした街づくりは、いつも新しい切り口で進めています。電動スクーターの貸し出しをメニューにもつ「高齢者に優しい商店街事業」も、そのひとつです。フェアでは会場を商店街に見立てて、各ブースをつなぐ足として電動スクーターを採用しました。つながることを目に見えるように示しながら、新しい試みで目を引くプランでした。当日会場では、子供も親もお年寄りも電動スクーターの乗車を楽しみました。会員の商店主がサポート役になって、商店街のショップモビリティのPRも果たしました。有りもの同士の機能を組み合わせることで、お互いコストをかけず、新しい動きをつくり出す例にもなりました。

 第2回は、会員の出展ブースができたことで、研究会の進化が始まったという思いがあります。
・従来からある薬局サービスをさらにお客さま志向に高めるために、UDな取り組みを発表した例。住まいの中のUDという視点から、簡易エレベーターの開発を始めたり、実際の注文建築の施工でUD研究の成果を導入した例。会員ブースの充実ぶりがわかります。
・動きのあるものとしてスポーツを採用。会員が選手の経験があるという話から車いすバスケットに決めました。ゴールを会場の中央にセット。フリースローの要領で3球連続ゴールすると、丹波のUDカレー皿と地元長田名物ぼっかけカレーライスの賞品。力が入って、ボールの飛び出しを防ぐため、地元中学生の皆さんがサポート役に。中学生の参加で、雰囲気もさらに、明るくなり、元気になります。
・神戸ユニバーサルデザイン大賞の創設。新しい商品のアイデアの他、企業・小売店などが地域で行っているUDに関する取り組みを募集。具体的な商品化に向けた提案として一般部門54件、未来のUD商品を想像する夢を語るコーナーとしてジュニア部門(中学生以下)269件のUDな思いが集まりました。一般部門では大賞は該当なし。ジュニア部門は、信号機とリンクして、音と光が出るベルトが大賞に選ばれました。神戸らしく「おしゃれ」を念頭に置いた中学生のアイデアでした。子供たちのアイデアには、近未来のユビキタス社会のイメージが多く取り入れられ、技術革新が豊かな暮らしを創り出す、そんな光景を見る思いでした。
・UDファッションショーも2回目。「着心地が良い。センスも良くて、気に入った。」とモデル役が板についた紳士淑女は、ステージを終えた後も各ブースを一巡り。婦人会ブースではファッション談義が始まりました。

 第3回は、フェアが「街々の活動家のルツボ」になった趣です。太鼓が響きあう中で、三木、小野市など県内で生活用品づくりをネットワークで進めているグループも初参加。「人」と「つながり」と「情熱」は、いよいよ高まりと広がりを見せ、ものづくりの芽も出来ました。ルツボが大鍋になりそうです。
・神戸ユニバーサルデザイン大賞は、2回目を迎えて応募数も上がってきました。一般部門70件、ジュニア部門345件。一般部門では初の大賞が出ました。婦人用のショールに使える服飾のアイデア作品です。ファッション都市宣言をした街、神戸。「UDファッションの街宣言」をいち早く長田から名乗りを挙げようと、会場は沸き返りました。ジュニア部門は、ブルブルふるえる体温計。何気ない暮らしのひとコマに注目した小学生の秀作でした。「有りそうだけど、調べると、製品として無いみたい。」審査会では作品の全てに目を通します。会員の皆が気にかけていた作品が大賞です。
・小野市の伝統的な地場産業「そろばん」の職人技を活用した製品づくりは、しっかりとUDでした。自らの強みを掘り起こして、他の強みを持ったものとつなげると、そこに新たな値打ちが創り出される。つながる時の合言葉がUD。生産地の皆さんとつながって、ものづくりに一段と関心をもつようになりました。
・スポーツはシッティング・バレーボールを採用。スポーツシリーズは定番になりそうです。座ったままでプレーする模範演技の後、地元の強豪ママさんバレーボールチームが挑戦。勝手の違いを乗り越えた奮闘に拍手が起こりました。
・カリブ海のラテンな気分で楽しめるスティールパン・バンド。楽器はドラム缶そのもの。地元商店街の皆さんが震災復興の思いで始めました。メンバーも、今や老若男女100人に迫ります。家族みんなで参加する例もあり、アットホームな気分が会場を包みました。地元の和太鼓「なかよし太鼓」も、親子で調子を取りながら、打ち上げてゆきます。響き合うことをステージで演じ、展示ブースでは体験交流コーナーを設けました。UDな音楽シーンもこれからのフェアで外せなくなりそうです。
・「食の街、長田」の面目躍如になった名物「ぼっかけ」に続けとばかり、UDな食品づくりをめざした会員たちが、名物候補2品を完成。うどんが輪になって、箸で取り易い「UDうどん」、入れ歯でも、食べ易いタコ焼の「えびタコ丸」。地元のうどん店、惣菜店の店主の方も汗をかきながらの全面協力。好奇心旺盛な下町の食通に大受けだったとか。

 駆け足で、3年分をご覧いただきました。「人」が出会い、気づき、つながり、「もの」ができて、「こと」が始まる。その良い循環が次々と生まれる街になって欲しい。「情熱」から発する思いです。


3. 長田発、神戸ものづくりことづくり塾に参加
 続いて、研究会として始めて公開の勉強会を開催しました。「きく」チームの担当です。講演の要点も、まとめていますので、ご覧ください。
今年の春、2004年3月に「長田発、神戸ものづくりことづくり塾」を長田区役所の大会議室で4日間にわたって開催したものです。
 開催告知のチラシをみんなで考え、標題には、「成熟市場に商機あり!」と打ち出しました。前文には「長引く不景気の中、企業には顧客満足度の追求、ユーザー層拡大が厳しく求められている。そのような情勢の中、ユニバーサルデザインを取り入れた商品やサービスで成功を収める企業がある。この講座では、そうした企業の方を講師にお招きした。」と書き、最後に「ユニバーサルデザインを取り入れることは、成功の近道だ。」と気を引く売込み文を挟み込みました。
トータルコーディネーターを神戸芸術工科大学の相良二郎先生にお願いし、講師陣は、1日1社で4社お越しいただくことにしました。
 会場での講演内容を簡単にご紹介します。

 1日目の松下電工(株)デザイン部並びにドレッシング部では、住まいと暮らしのユニバーサルデザイン「お客様視点に立った商品づくり」をテーマに、独自のユニバーサルデザイン配慮商品設計ガイドラインや社内研修、ユニバーサルデザイン商品の具体的開発事例(洗面化粧台)など先進的な取り組みを紹介し、これからの製品開発、企業のあり方まで話を進めていただいた。

 2日目のひょうご福祉新産業研究会では、地場産業でのユニバーサルデザインの展開をテーマに、地域産業活性化の有効な取り組みとして、産業の新しい組み合わせ、仕組みの創出による地域技術を活かした売れる商品づくりをわかりやすく説明された。また、地元長田区の事例として、(株)タイセイのご紹介がありました。

 3日目の(有)サニープレイスでは、障害があっても、いきいき暮らせる住まいづくりをテーマに、障害者専門に住まいの新築やリフォームを手がけてきた経験から得た、暮らしやすい住宅の事例、工夫の数々、苦労話を披露いただいた。障害者ができるだけ快適に暮らせる住まいは、あくまでも機能最優先。でも、デザインは、普通に、おしゃれに、さりげなくという話が印象に残りました。

 4日目のJTBバリアフリー研究所では、「旅を通してのユニバーサルデザイン、サービス業における展開」をテーマに、高齢者や障害者など、あらゆる人が安心して旅行を楽しめるツアーの取り組みを紹介いただいた。企画から添乗までの実例を通し、いかにお客様のニーズを満たすのか。サービス業の企業姿勢のあり方まで触れていただいた。

    長田発 神戸ものづくり・ことづくり塾
 主催者として、実のところ、告知期間も短く、当初、参加者の数が気になるところでしたが、ふたを開けると、用意していたパイプ椅子が足らずに、受け付け担当の会員が慌てるほどの盛況で終えることができました。主催者発表は目標の150%、全日程200人を超える参加となりました。

 講師の皆さんには塾の終了後、若干時間をいただき、会場の隅にテーブルを寄せ合い、茶話会をセット。質疑応答の硬さは無くして、参加者と講師が和める場づくりです。ファシリティ役の会員がつい熱がはいって話し過ぎたというハプニングはあったものの、毎回交わされる専門的な話題のやりとりに会員のみんなは大いに触発されました。
ひょっとして、この時、長田区ユニバーサルデザイン研究会は4年目にして、大きな化学変化を起こしたのかも知れません。それは、チームが事業化を考え始めたことです。

「つながった区ユニバーサルデザイン研究会」を一緒に、やりませんか?
 トラの巻も、化学変化を起こして、突然、勧誘チラシになってきます。
事業化に向けたプロジェクトが始まります。職業・立場などにとらわれることなく、皆さん自身が興味のある活動に参加しませんか?「人」とつながると、自分が忘れていた能力を引き出してくれる場に出くわすことがあります。そんな楽しいオマケがつく研究会に、ようこそ、つながって下さい。

 2004年11月3日(祝日)に第4回長田発こうべユニバーサルデザイン・フェアがJR新長田駅前で開催されます。その会場で、下記のプロジェクトの進捗報告があります。つながることに、まだ、迷われている方は、是非、お立ち寄りの上、現場で、つながって下さい。

(1)工務店経営の会員が「以前から暖めていたプランを始めたい。」と例会で発表した。名づけて、「すまいの応援団」。医師、ケアマネージャー、建築士、福祉住環境コーディネーター、電気店、福祉用具専門相談員などでチームを作りました。住宅改修の専門家集団が会員の皆さんで出来上がりです。高齢者の方がお客様。「暮らしの中で不自由をし続けていませんか?ちょっとした工夫、改善で、快適になります。」と声がけをします。安全なすまいづくりをPRします。施工の請け負いも視野に入れています。お客様は、地域の「人」。不便のリクエストがそのまま、すまいの応援団の応援になります。地域の不便のデータベースづくりも狙いのひとつです。
(2)商工会議所の地元支部が、UDの街づくりの土壌を活かした研究会の活動に注目。企業と企業のつながりを実現する場として、研究会が期待されています。UD商品の企画、試作品の評価を会員が担い、改良された商品を会員の商店街で実験的に展示、販売し、お客様の声をフィードバックする仕組みを検討しています。
(3)「みる」チームと「かぐ」チーム合同で、地域のUDなスポットをつないでゆく「UDながた百選」観光コースを開発中です。最近では、学校、駅、商業ビルなど新築の建物が増えてきました。それらもUDなスポットと言えますが、この街では、ありふれた風景の中に、さりげなく百選はあります。「人」と出会うことで、見えてくるUD。それを会員のネットワークで選びます。来訪者が「人」につながりながら、街歩きをするという新しい都市型観光です。ある意味、ミステリー・ツアーです。来訪者には、自らが言葉を交わしながら、歩いた経路と出会ったスポットの記録を残していただきます。これが「道中記」になって、次の来訪者の頼りになります。来訪者が情報提供者になってプランに、つながるというのが隠し味です。修学旅行の班別行動のメニューに仕上げるつもりです。また、旅の楽しみ、UD弁当も開発中です。
(4)小中学校UD体験授業で培ったノウハウを活かす事業として、UDをテーマにした副読本の製作に着手します。「ふれあう」チームと「いう」チームが中心です。これまで、いくつかの授業を行いましたが、同じ形で進行できたものは有りません。どこか違います。事前学習の内容が影響している場合もあります。体験に基づいた副読本を販売できるレベルまで質を高めるプロジェクトが完成まで1年を目途に始まりました。

出題の解答
 (ながた区+人)×情熱=つながった
 「この等式が成り立つ理由を、あなたは解けますか?」

 勧誘のチラシで「つながった区ユニバーサルデザイン研究会」に興味を持っていただいた方は、もう既につながった会員になっています。つながって、結び目が解けなくなっています。
 おわかりですか?正解は、「解けません。」でした。

 誌面よりスキャナで写真を取りこみましたので、若干汚れが目立ちますがご了承下さい。

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