こんなところでも近畿タクシー

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以下の文章は「神戸新聞2005年2月13日朝刊」に掲載された記事を転載しています。

同時代を駆ける

顔が見える関係築く

近畿タクシー社長 森崎清登さん(52)

地域を元気にするのが企業の使命。それは本業にも照り返す。



「地域を結ぶ企業」を掲げる。2月に一新した
制服も、地元アパレルと共同開発した。
「バスもやってるってあんまり知られてないから」
とタクシーでなくバス内で=神戸市長田区
上池田5、近畿タクシー本社
   (撮影・中西大二)
 観光と福祉を軸に打ち出す新事業は「タクシーは単なる移動手段」との概念を超える。神戸市長田区の近畿タクシー社長、森崎清登さん。長田の商店主らが、修学旅行生に阪神・淡路大震災の体験を語る企画を発案するなど、地域社会にも積極的にかかわる。ビジネスとまちづくりに共通する信念は、顔と顔が見える関係づくり。「人と人をつなぎ、地域を元気にすることが企業の使命」という森崎さんは「地域の活性化が必ず本業に照り返す」と確信する。(山本哲志)

 神戸市内に77あるタクシー業者。流しがほとんどで、降りてしまえばドライバーと客との関係は終わる。「同じことをやっていては生き残れない」。宴会セットを積んだ「お花見タクシー」や塾通いの子どもを送迎する「安心かえる号」を運行させる。

 「お客さんとドライバーとの間に、顔と顔が見える関係を築きたいんです。でも、それができるのは、せいぜい半径2キロメートル以内に住む住民に限られる。だから、狭い範囲にできるだけの経営資源を注ぎ込む」
 「もともと長田は雑然とした下町で、顔の見える関係をつくりやすかった。震災で被害を受け、多くの人が長田を離れてしまったけれども残った人と新たに入ってきた人とで、新しい下町をつくりたい」

 「地域に元からあるものを資源として生かし、活性化に役立てる」。その思いで地域に眠る“宝”の発掘に奔走する。ともすれば忘れたくなる震災体験もあえて「資源」ととらえる。それを語り聞かせることで、修学旅行を神戸に誘致する−という発送も生まれた。

 「旅行の誘致に震災を利用することに戸惑いがあったかもしれない。しかし修学旅行生も、参加してくれる商店主の数も増えている。生の声で震災を語り継ぐことは絶対に必要やと思った。真剣に聞いてくれる高校生を前に、商店主の皆さんも自分や自分の町に誇りが持てるのではないか」
 「僕も『長田って大した街なんや』と思うよ。例えば名物づくり。そばめしとかぼっかけとか、長田ではありふれたものやけど、みんなで仕掛けて全国で有名になってきている。いま考えているのは、在日外国人が多いという特徴も立派な地域資源だということ。これを生かして、多文化が共生できるまちづくりだって提案していけると思う」

 タクシーは地域の足を支える公共交通機関だ−。当たり前のことを「当のタクシー会社ですら忘れがちなのでは」と思う。「地域に密着する企業である以上、地域を元気にすることが使命だ」と強調する。

 「企業活動というのは、人に役立つことをするのが本来の目的。公共交通機関ならなおさらです。会社に勤める人も地域の一員であることを考えると、企業と地域は切っても切れない。さらに、地域の元気は結局、経済の活性化につながるんです。人の動きが活発になれば、タクシーに乗る人も増えるはず。長田のにぎわいは完全には戻っていない。復興施策の検証は必要だけど、ここは前向きに考えたい。肝心なのは人です。人と人とがつながり合うことの大切さを、震災から立ち上がってくる過程であらためて知りました。」


もりさき・きよと
1952年、神戸市須磨区生まれ。早稲田大学
法部を卒業後、西宮市内の酒造会社に入社。
86年、義父の経営する近畿タクシーに移り、
96年から社長。長田区ユニバーサルデザイン
研究会会長、まちづくり会社「神戸ながたTMO」
商業活性事業部長など社長業以外の役職は
数えきれない。

 新聞紙面よりスキャナで写真を取りこみましたので、若干汚れが目立ちますがご了承下さい。


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