こんなところでも近畿タクシー

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以下の文章は「産経新聞2006年11月24日朝刊」のコラム「とれとれ教育」の記事を転載しています。

ナベット・ミュゼ

 バスがワンマンカーになって久しいが、運転手は人それぞれ。声を出すのが損とばかりに無言で運転している人もいれば、親切で心のこもった声かけや気配りをする運転手もいる。同じ研修を受けているはずなのになぜ差が出るのか、と日頃から思っていたが、面白い経験をした。
文化の日、昨年同様「ナベット・ミュゼ」という西宮〜芦屋の文化施設を回りながら街並みを見るというバスを走らせた。乗客は好きなところから乗って好きなところで降りる。車内ではそれぞれ街並み、建築、交通、演劇、文学の各専門家がドクターと称し案内役を務める。
 文学散歩のバスガイドはよく引き受けるが、その場合乗客は朝から夕方まで同じメンバー。車内には一体感があり、アットホームな雰囲気が流れて、楽である。だがこの「ナベット・ミュゼ」は乗客がめまぐるしく変わる。テンションの高い乗客もいれば、ぶぜんたる面持ちの人もいて、とてもやりにくい。
 そんな中で、運転手のサービス精神に助けられた。彼らは普段は路線バスの運転をしている人たちだ。阪急、阪神が合併して間もない時期に実施したせいか、両社とも精鋭を送り込んだとみえ、運転技術はもとより、乗客の応対、場を読む力が並外れていた。
 昼食時間になると、「せっかくだから、先生のそばで食事させてください」と同席。自分が日頃疑問に思っていること、知りたいことなどを次々と質問する。のみならずこちらの知らない路線情報をいろいろ教えてくれた。
 今年は補助に回った神戸のタクシー会社の中型バスはいつも文学散歩に使わせていただいているのだが、ここにまた名物運転手がいる。彼の映画に関する知識と批評眼は玄人顔負けなのだ。バスツアーからの帰路、いつも映画話に花が咲く。また福祉関係の免許を取得し、障害者の送迎にも重宝がられている。
 精鋭に共通して見られるのは、類まれな好奇心と、向上心。文化と縁遠いと思われがちな彼らから教わることの多い一日であった。
 (たつみ都志=武庫川女子大学教授)

(文章中で「〜に回った神戸のタクシー会社の中型バスは〜」と記載されていますが、
これは弊社、近畿タクシーの中型バス(運転手)のことを紹介していただきました。)


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