こんなところでも近畿タクシー

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以下の文章は「旬刊旅行新聞2007年7月21日号」の記事を転載しています。

社会経済生産性本部
余暇創研 研究主幹 丁野朗

近畿タクシー

街のコンシェルジュへ



制服と制帽と笑顔が似合うスイーツタクシーの運転手さん
 阪神淡路大震災から12年、街並みはすっかり復興し、ベイエリアも見違えるほどに綺麗になった。しかし、街ごと燃えつくすような大きな被害を受けた長田区でタクシー会社を経営していた森崎清登社長は、当時生まれ育った街の変わりように心の底から悲しさがこみ上げてきたという。「あの日の経験を力に変える」。それが森崎さんの原点となった。
 震災から5年後、仮設住宅で孤立していた高齢者などを、商店街まで運んで元気になってもらおうとコミュニティーバスを走らせた。その喜ぶ姿を見て地域密着の経営姿勢を学んだ。以来、水着のまま須磨の海水浴場まで送迎する「海タクシー」、紅白の陣幕の宴会セットを用意し会場設営や場所取りまでする「花見タクシー」など、顧客ニーズの襞を読むような事業を次々と展開してきた。「商売のヒントは地域にある」。タクシー事業の原点を、徹底して地域や住民ニーズに置く経営姿勢である。
 その近畿タクシーが昨年10月からスタートした「神戸スイーツタクシー」に試乗させてもらった。神戸といえば、幕末開港の神戸港を起点に、海外由来の多彩な食文化、なかでもパンや洋菓子の発祥の地である。女性に人気のスイーツの名店をドライバーのガイドで廻り、その魅力を堪能してもらおうと、JTBとタイアップして事業化した。明治38年創業の老舗洋菓子店ドンクや、全国展開するア・ラ・カンパーニュ、フーケといった名店を結び、約2時間で6千円という価格設定である。
 「神戸マダムの気分でケーキを戴く」というコンセプトから、神戸の街並みを一望できるビーナスブリッヂを出発点とし、北野の異人館街や高級婦人帽子店マキシンなども組み込まれている。ちなみに、ドライバーが被る帽子もマキシンの特注品だそうだ。受け入れるケーキ店では、このコースの特別メニューを用意し、顧客の名前を事前に聞いて名前入りのチョコレートプレートをさりげなく用意してくれる。短い時間だがVIP気分・マダム気分を味あわせてくれる。
 観光プログラムは、地域の魅力資源を編集し、受け皿となる組織をつくり、人材育成やワンストップの情報基盤を整備するなど、さまざまな取り組みが求められる。しかし街の地理に疎い観光客には、点在する魅力資源や物語を結ぶための足となる二次交通が要となる。近畿タクシーの試みは、単に人を運ぶだけのタクシーではなく、街のコンシェルジュを目指す意欲的な事業への転身である。顧客ニーズの機微を捉えた小さな地域ビジネスの工夫とその集積が、観光ルネサンスを具体化する大きな一歩となろう。

 スキャナで紙面より写真の画像を取りこみましたので、若干汚れが目立ちますがご了承下さい。

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