こんなところでも近畿タクシー

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以下の記事は「朝日新聞 平成21年1月28日 朝刊・コラム 『ヒト物語』」より転載しています。

ヒト物語
お客のニーズ運びます

「お花見」「スイーツ」…多彩

近畿タクシー社長 森崎清登さん(56)     



「いつも街の魅力を探しています」。ロンドンタクシーの傍らでほほ笑む森崎清登さん
=神戸市長田区の近畿タクシー本社
 紅白の陣幕を用意し、場所取りもしてくれる「お花見タクシー」、水着を着たまま自宅と海水浴場を往復できる「海のタクシー」−−−。アイデア満載のサービスを提供し、「オンリーワン」のタクシー会社を目指している。
 神戸市須磨区生まれ。東京の大学を卒業後、西宮酒造(現・日本盛)に入社した。営業や広報などを担当したが、11年ほどで「サラリーマンとしての先が見えてしまった」。86年、妻の父が社長だった現在の会社に後継者と見込まれて転職した。
 地域同一運賃や増車規制に守られてきたタクシー業界。入社当時は流しの営業がほとんどで、得意先の名簿もなかった。任されたのは、売り上げの管理や運転手の点呼など地味な仕事ばかり。「こんなはずでは」と後悔する日が続いた。
 転機は91年。英国製の「ロンドンタクシー」が日本で販売されるという新聞記事を読み、神戸の街並みにも調和する車体に一目ぼれした。通常の5台分にあたる約900万円したが、思いが社長に通じて1台購入した。
 この車で結婚式から披露宴へと新郎新婦を運ぶ「ブライダルタクシー」を始めた。運転手の制服もホテルマン風にし、花束贈呈や写真撮影などのオプションを加えると料金は2〜3万円。それでも予約が相次いだ。「ニーズに応えたサービスを提供すれば、相応の料金を頂けると実感した」と振り返る。
 だが、95年1月に阪神大震災が襲う。長田区の社屋は傾き、ガレージの床が落ちた。通常営業を再開するまで2カ月かかったが、それ以上につらかったのが、幼い頃からの遊び場だった町や商店街が壊滅的な被害を受けたことだった。地域の一員として、復興にかかわろうという思いを強くした。
 00年には復興住宅の独居高齢者を元気づけようと、商店街まで乗せる無料バスを期間限定で運行。01年からは、街づくりのために地元商店街が中心になって設立した会社でも活動し、長田名物の「ぼっかけ」などを全国に発信してきた。
 「商売のヒントは地域にある」と気づいたのはこのころ。塾通いの子供を送迎する「安心かえる号」は「急な用事で迎えに行けなくなった時にタクシーを利用したい」という母親の声から生まれた。
 06年秋から始めた「スイーツタクシー」も人気だ。神戸市内の有名ケーキ店を観光名所に見立て、甘党のお客を連れて行く。4店で始めたが、今では阪神間の12店に増えた。店側も特別メニューを用意し、今では年約500件の予約がある。4月からは神戸牛の名店をめぐる「神戸ビーフタクシー」を始める計画だ。10店が協力を約束してくれた。
 「まちの魅力を探し出し、人と場所を結びつけると、みんなの気持ちがフワッと浮き上がる。そのきっかけをつくるのが私たちの役割です」
   (住田康人)

 近畿タクシー 52年創業。森崎さんは96年に社長に就任した。神戸市などが営業エリアで、タクシー52台、バス7台を保有する。従業員約70名。年間売り上げ約3億円。本社は神戸市長田区上池田5丁目。

スキャナで写真を取りこみましたので、若干汚れが目立ちますがご了承下さい。


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