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以下の文章は平成14年8月29日付「日経MJ(日経流通新聞)」に掲載された記事を転載しています。

「ぼっかけ」に にぎわい託す

神戸・長田区 庶民の味PR

「ぼっかけ」を使った商品
「ぼっかけ」の商品開発に取り組む
商店主ら(神戸市長田区)
 震災のまちから食のまちへ−。阪神大震災でひときわ大きな被害を受けた神戸の長田区で、「食」をテーマにした街づくりが動き出した。商店街などで作る街づくり機関の神戸ながたティ・エム・オー(ながたTMO)が中心となり、地元の庶民の味「ぼっかけ」を全国に売り込もうというのだ。大手食品メーカーを巻き込んで、長田が発祥の「そばめし」に続くヒット商品に育て上げる戦略だ。


 7月31日、JR神戸線新長田駅に近い大正筋商店街で、発売を翌日に控えた「ぼっかけカレー」」試食会が開かれた。ながたTMOとエム・シーシー食品(MCC、神戸市、水垣宏隆社長)の共同開発商品だ。同時発売のぼっかけカレーラーメンも用意されたが1時間で完食した。「今日からぼっかけは長田の新名物になりました」。会場を埋めた約200人の住民らを前に、ながたTMOの森崎清登・観光事業部長は宣言した。
 そもそも「ぼっかけ」とは、ぶつ切りの牛すじ肉とコンニャクを甘辛く煮込んだ料理。コリコリした食感と濃厚な味わいが特徴で、「ぶっかける」が名前の由来。関西圏では一般的に「スジコン」の名称で有名だが、長田かいわいでは「ぼっかけうどん」や「ぼっかけ入りお好み焼き」などの定番メニューの具材として親しまれてきた。「住民の私らにとっては当たり前の存在だった」(森崎さん)ため、注目を集めることもなかった。
 大正筋商店街のある新長田地区は震災で8割以上の建物が全半壊し、神戸市による再開発事業が進む。雑草が茂る空き地もいまだ残るが、再開発ビルの建設も急ピッチ。19日には10棟目の住宅・店舗の複合開発ビルが完成、最終的には30棟、3000戸分の住宅を建設する計画だ。
 それでも震災前のにぎわいは思うように戻らない。昨年には同地区の活性化を目指して、商店街や地元企業らが出資してながたTMOを設立した。高齢者への電動スクーター貸し出しやホームページの開設−−。商店街に人を呼び込む様々な活性化策を打ち出すなか、震災の教訓を知ってもらおうと修学旅行の受け入れ事業を始め、全国から10校近くが訪れた。
 そんな修学旅行生から出てきたのが「記念になるお土産が欲しい」という声。商店街を見回しても「下町の風情が残る長田らしさを伝えられる商品がなかった」とながたTMO総括部マネージャーの東朋治さん。
 今年4月、長田が創業地の業務用カレー大手のMCCに相談したところ、長田の庶民の味「ぼっかけ」を商品化してはという声が上がった。昔ながらのぼっかけの味を知るMCC社員が試作品を作り、同社が得意とするカレーに乗せたところ「意外なほどおいしかった」(森崎さん)。話はとんとん拍子で進み、相談からわずか4カ月で販売にこぎつけた。目指すは長田が発祥で、99年にニチロが冷凍食品で発売して大ヒット商品になった「そばめし」だ。

「そばめしに続け」企業と協力

 コンビニなどで全国のご当地商店が注目を集めるなか、大手食品メーカーもヒットへの期待を寄せる。関西事業部がMCC本社に隣接していた東洋水産もぼっかけ商品化の話を聞き「街づくりへの協力をアピールすることで他のご当地商品との違いを出せる」(広報宣伝部)と判断。9月2日に、MCC商品と同じパッケージデザインを使ったカップめんなどを関西圏のコンビニや量販店で限定発売。その後順次全国に拡大する。
 菓子メーカーの神戸グルメネット(神戸市、竹村哲社長)やオリバーソース(神戸市、道満雅彦社長)もぼっかけ焼きそばやお好み焼きなどを計画。神戸グルメネットの親会社と取り引きする敷島製パンも「長年親しまれたぼっかけの味は生き残りが激しいコンビニでも定番化する可能性を持っている」と、10月にもコンビニ向けにぼっかけパンを発売する。
 ぼっかけが、そばめしの時と違うのは地元が全面的に応援している点。「そばめしは神戸の下町の味と言われたが、長田とは結びつかなかった」(TMOの東さん)。今回の商品パッケージには「これが長田の味!」とうたい、「本場の味を求める観光客を街に呼び込む」(東さん)狙いだ。
 さらに新長田地区の10以上の店舗が、ぼっかけパイやぼっかけちらしずし、ぼっかけコロッケにぼっかけオムレツといったぼっかけ商品を独自に開発した。商店街のあちこちで「神戸長田名物ぼっかけ」の文字が踊るのぼりがはためいており、街を挙げて“新名物”のPRに力を入れている。
 長田にはお好み焼き屋だけでなく、焼き肉店やアジア料理店など多種多様な飲食店が多く集まる。「これからはチヂミなども新名物に育て、街全体を食のテーマパークにしたい」と東さん。6400人以上の犠牲者を出した震災の教訓を伝えてきた長田。下町の味で訪れる人に笑顔を与える「食のまち」への再生は始まったばかりだ。
               (神戸支社 遠藤邦生)

 新聞紙面よりスキャナで写真を取りこみましたので、若干汚れが目立ちますがご了承下さい。


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