こんなところでも近畿タクシー

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以下の文章は「milkL navi magazine(ミルクルナビ マガジン)」2002年8月号に掲載された記事を転載しています。

DJ SHINGO の神戸巡礼
嗚呼!憧れの甘処 スウィートルーム Vol.3
今月の甘処「ポートキャブ」

「タクシードライバー」

 仕事柄、深夜タクシーを利用することが結構ある。とは言ってもバスや電車が走っていないという物理的な理由だから、タクシーというのは目的地までこちらを無事に運んでくれればそれで十分だと考えていた。でもそれは古い考えになりつつある。最近のタクシーには様々な新サービスが導入されているらしいのだ。具体的には、届け物や買い物、病院の診察券提出や薬の受け取りといった代行サービス、この他にも保育園への子供の出迎え、24時間緊急支援サービスなど。そんな多岐に渡るサービスを提供する上で重要となってくるのがドライバーの教育だそうだ。

 で…また随分と昔の話だが、未だに忘れられないタクシードライバーが2人いる。
 1人はバブル華やかな頃に遭遇した九州出身の出稼ぎタクシードライバーだ。彼は全く道を知らなかった。それでも目的地を告げると自信たっぷりに「曲がる場所に来たら右か左か言ってください。道は知りませんけど車の動かし方は良く知ってますから。」と屈託のない声で応えた。で、走り出したらこれがまた速いの何の。瞬時の車線変更で前の車を次々と追い抜く。本人の言う通り運転技術は優れていたが正直言って怖かった。何とか無事に着いて料金を払った後でふと心配になって尋ねた。「帰り道は判ります?」するとそのドライバーは笑顔で「大丈夫。地球は丸いですから。」この人には勝てないと思った。

 もう1人は真面目そうな初老のタクシードライバーだった。夜道の暗さで人影を発見しづらかったのか一寸慌てた感じで停車したその車に乗り込み目的地を告げる。小声で軽く復唱したそのドライバーはゆっくりと車を走らせた。スピードを出しすぎる車も困るが逆にあまりにノンビリされてもイライラする。しかもこの車の場合は車線変更しそうでしない。右に行こうとしては戻り、左に行こうとしては戻る。オカシイと思ってそのドライバーを斜め横から少し覗き込んだ。それで血の気が引いた。何とこのドライバー、時々コックリコックリと居眠りをしていたのだ。それでハンドルが少し右や左に振れていたのだった。危険を察知した私はバチッと目の覚める強烈な一撃を喰らわせるべくそのドライバーに声をかけた。「眠そうだから、代わりに運転しましょうか!?」これで何とか一命を取り留めた(?)のだった。

 本来タクシーの料金には、後部座席に身体をあずけて窓ガラスの外を流れて行く景色を楽しむ「束の間のリラックスタイム」代も含まれている気がする。そんな意味でも、親切なドライバーが案内ガイド役も務めてくれるし、これまで500組以上もの新婚カップルを乗せて温かい祝福を受けて来たというこの「ポートキャブ」は大切な人との思い出作りにおいて最高の演出になると思う。それにしても、こんなロンドンタクシーがいきなり停車していても違和感がない。つくづく神戸はオシャレが似合う街だ。
  PROFILE:たちばな・しんご
福岡出身・Kiss-FM神戸のラジオパーソナリティを務める傍ら、コラムニストや舞台役者としても活躍、その表現活動は多彩。“SHINGO師匠”の愛称で、若者を中心に人気を集める。趣味はプロレス観戦。

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