以下の文章は平成13年3月13日付「神戸新聞 朝刊」に掲載された記事を転載しています。
光る企業 経営革新に挑む |
地域との密着 運転手の向山文則(50)はホームヘルパーの2級資格を持つ。この日は、脳こうそくで入院している体の不自由な男性を、ワゴン型タクシーで神戸市内の転院先まで搬送する。 事前に医師や看護婦から利用者となる患者の体調を聞き、搬送時の注意点を再確認する。患者がストレッチャーで運ばれてきた。身体介護はヘルパーの基本。寝たままの状態で、スムーズにワゴン車に移す。 「頭の位置はこれでいいですか。」やさしい口調で声をかける。利用者の体の安定を確認して、運転席に乗り込む。車内に差し込む外光をめざとく見つけると「まぶしいでしょう。」カーテンを下ろす。自然なしぐさ。「車いすや横になったままでは、車のスピードも倍以上に感じられるんです。」同伴の家族にも声を掛けながら、転院先まで丁寧に車を走らせる−。 同社にはヘルパー資格を持つドライバーが十人近くいる。「福祉の現場を体験することで、社員全員の接客態度が一変した」と、社長の森崎清登(48)。 タクシーは、人を安全に運ぶことが重要な役割。しかし、過当競争の中、付加価値がなければ生き残れない。タクシー業界の規制緩和で、今春からは異業種からの新規参入や価格の自由化が始まり、競争に一層の拍車がかかる。 介護タクシー、レトロ調タクシー、天然ガス利用の低公害車…。次々と新機軸を打ち出してきた森崎だが、福祉とともに現在の営業の柱に掲げるのが観光。最近は新たな企画を胸に、地元となる長田の街を走り回っている。 「長田の旅」。被災者が震災体験や復興にかける思いを観光客に語り、一緒に街を回るものだ。地元商店街やFM局のメンバーなどに協力してもらう。「観光のだいご味は、地域で生活している人の話を聞き、ふれあいを深めることだと思うんです。」 長田にこだわり、今後も事業範囲を長田区に限定する方針。「愛する地域で困っている人を運び、楽しく人を結ぶ。街が活性化すれば、人の動きも出てくる。タクシー会社が生き残る道は地域密着しかない。」競争に打ち勝つため、森崎がたどり着いた結論だ。 =敬称略= (桑名 良典) |
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※ 新聞紙面よりスキャナで写真を取りこみましたので、若干汚れが目立ちますがご了承下さい。